いったい何のための防衛「省」昇格なのか。『省になってもこれまでと実質的な違いはない(朝日)』なら庁のままで良いではないか。『自衛隊員が誇りを持てる(朝日)』『昇格は隊員の士気高揚にもつながる(毎日)』は幹部だけではないのか。自衛隊員のアンケート調査でもしたのか。「誇りを持って人を殺せるようになります」とでも。
私は「国際平和協力活動」
http://houdoukihon.cocolog-nifty.com/blog/2006/11/post_0712.html
で記したように、自衛隊を解体再編成して三救隊の設置を提唱する。三救省なら消防・警察・海上保安庁・気象庁などとも連携もしやすい。賛成できる。しかし今回の昇格は自衛軍さらには日本軍へと「新たなる戦前」への布石でしかない。
今回、民主党が自民党案に賛成した。『共産、社民と連携した沖縄県知事選で敗北した傷は深く、来年夏の参院選で与党過半数割れを目指す小沢戦略はいっそう見えにくくなった(日経)』に共感する人は多いだろう。来年の統一地方選、参院選に早くも「敗北宣言」を出したと私は受け取る。
各紙の論調は、朝日:明確に反対 毎日:容認 日経:民主党の異論派説得 共同:状況説明 だ。
この中で毎日が『防衛庁の省昇格関連法案のポイント』を箇条書きにして整理している点は評価したい。ただし、効能書きにとどまり、副作用の記述がない。報道は権力に迎合することなく常に問題提起する存在であってほしい。
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
【社説】2006年11月30日(木曜日)付 防衛「省」改めて昇格に反対する
戦争が終わって60年が過ぎた昨年、詩人の長田弘さんはそのころ盛んに語られた「戦後60年」という表現に疑問を投げかけた。「不戦60年」と言うべきではないのか。
「昭和の戦争に敗れて戦争はしないと決めてからの、戦争をすることを選ばなかった『不戦60年』という数え方のほうが、この国に戦争のなかったこの60年の数え方としては、むしろ当を得ています」(長田弘「知恵の悲しみの時代」みすず書房)
60年もたてば、多くのものは古くなって時代に合わなくなる。手直しするのは当然だ。憲法しかり、戦後民主主義しかり――。そんな風潮がある。
だが、日々続けてきたものは古くなるのではなく、日々新たな到達点がある。そこを前向きに評価したい、というのが長田さんの言いたいことだろう。
防衛庁を「省」に昇格しようという法案の審議が衆院で大詰めを迎えている。きょうにも本会議で可決される見通しだ。「庁」という形は時代に合わないから、直したいということのようだ。
防衛庁が生まれて52年がたつ。自衛隊は国土防衛だけでなく、カンボジアへの派遣をはじめ海外でもさまざまな経験を積んだ。かつてと比べ、国民は自衛隊や防衛庁をより肯定的に評価するようになったのは事実だ。
だがこの間の歩みには、戦前とは違う国のありようを求めてきた私たち自身の決意が投影されていることを忘れてはならない。
戦後日本は、侵略と植民地支配の歴史を反省し、軍が政治をゆがめた戦前の過ちを決して繰り返さないと誓った。だからこそ、戦後再び持った武力組織を軍隊にはせず、自衛隊としてきた。普通の軍隊とは違う存在であることを内外に明らかにする効果も持った。
軍事に重い価値を置かない、新しい日本のあり方の象徴でもあった。国防省や防衛省ではなく「防衛庁」という位置づけにしたのも、同じメッセージである。
省になってもこれまでと実質的な違いはないと、政府・与党は言う。自衛隊員が誇りを持てる。諸外国も省の位置づけだ。名前が変わったからといって、戦前のような軍国主義が復活するわけではない。それはそうだろう。
だが、問われているのは私たちの決意であり、そうありたいと願う戦後日本の姿である。古びたり、時代に合わなくなったりする問題ではないはずだ。
長田さんが「不戦60年」の表現を薦めるように、私たちは「庁」にこだわりたい。省になることで、軍事的なものがぐっと前に出てくることはないのか。そんな心配もある。
日本は、惨憺(さんたん)たる敗戦に至った歴史を反省し、新しい平和の道を選んだ。それは多くの国民が賛成し、いまも支持している選択だ。その重みを考えると、あたかも古い上着を取り換えるようなわけにはいかない。
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20061201k0000m070163000c.html
社説:防衛省昇格 責任の重さをかみしめよ
防衛庁を「省」に昇格させる防衛庁設置法改正案と国際平和協力活動などを自衛隊の主任務とする自衛隊法改正案が30日、衆院本会議で可決された。
参院の審議は残るが、民主党も賛成したため今国会で成立する見通しになった。
防衛庁は昇格を目指す理由としてこんな趣旨の説明をしている。
防衛庁は内閣府の外局で、防衛庁長官は防衛政策や高級幹部の人事など、内閣府の長である首相を通じなければ閣議に諮ることができない。昇格によって外相など「省」の大臣と同様に、直接、閣議に諮り、予算要求なども財務相に求めることができる。
他国の組織は「省」で、「庁」は下に見られることがある。交渉でも、実態は「省」と変わらないと説明しなければならない。昇格は隊員の士気高揚にもつながる。
また、PKO協力法や周辺事態法などの制定過程では、米国の意向などに配慮する外務省が主導してきた。実際に派遣されるのは自衛隊で、防衛庁は武器使用などをめぐって外務省と対立する場面もあった。政策官庁として、国内調整の上でも外務省と同格になりたいという思いもあったようだ。
しかし「庁」であった重い理由を忘れてはならない。防衛政策は防衛庁長官と首相という二重のチェックを受けてきた。戦前、軍部の独走を許した教訓から、戦後の平和憲法を踏まえて、厳格にシビリアンコントロールを担保しようとする精神だ。
そこには、外国に対する平和国家としてのメッセージもあった。
昇格は、国民の自衛隊に対するアレルギーが薄れ、理解が進んだこともあっただろう。野党第1党も賛成して可決されたことは、その表れだとも言える。
北朝鮮の核実験など安全保障の重要性も増している。国際社会からの自衛隊の活動に対する要請も増え、その評価も高まっている時だけに、私たちも省昇格は時代の流れだと考える。
一方、自衛隊の主任務では自衛隊法3条第1項の「わが国の防衛」に、2項として周辺事態やPKO、テロ対策特別措置法などの海外活動も加えられた。それらは今まで同法の雑則で定められ、国防の余裕のある時に実施される「余技」という位置付けだった。
久間章生防衛庁長官は、さっそく国会審議で、海外での事態に即応できる部隊や教育組織の必要性に触れた。
自民党内には、これを機に海外派遣の恒久法を求める声もある。案件ごとによる特別措置法制定は時間がかかり、国際平和協力を大義にすぐに部隊を派遣できる仕組みを作るというものだ。
だが派遣先によって状況は違い、一くくりにするのは難しい。今回の法改正と恒久法の議論は全く別ものだと確認しておきたい。
省昇格には国民の信頼が不可欠で、防衛庁には一層の責任が求められる。談合事件や情報漏れなど不祥事が続くが、国民の厳しい目が光ることを自覚し、再発防止に万全を期してほしい。
毎日新聞 2006年12月1日 0時24分
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20061130dde001010009000c.html
防衛庁「省」昇格:法案、午後衆院通過 来年1月移行の方針
防衛庁の省昇格関連法案が30日の衆院安全保障委員会で採決され、自民、民主、公明などの賛成多数で可決された。併せて、民主党の要求を受け入れる形で、シビリアンコントロール(文民統制)の徹底、防衛施設庁談合事件などの不祥事の究明などを求める付帯決議も行った。同日午後の本会議でも緊急上程を受けて可決予定。
参院では12月1日にも本会議で趣旨説明が行われ、今国会中に成立する見通し。政府は成立を受け、来年1月から防衛省に移行させる方針だ。
同法案は、内閣府の外局である防衛庁を「省」として独立させる防衛庁設置法改正と、国際平和協力活動などを自衛隊の「本来任務」に規定する自衛隊法改正が柱。6月に閣議決定、提出されたが継続審議となり、今国会では10月27日に審議入りした。
安保委は野党側の求めで防衛施設庁談合事件の集中審議を行った後、教育基本法改正案をめぐる与野党対立のあおりで空転。野党は沖縄県知事選の敗北を受けて24日から審議に応じた。【山下修毅】
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◇防衛庁の省昇格関連法案のポイント◇
・防衛庁を防衛省、防衛庁長官を防衛相に変更
・国際平和協力活動などを自衛隊の「本来任務」に規定
・防衛の主任大臣を首相から防衛相に変更
・防衛施設庁を07年度に防衛省に統合
・安全保障会議の諮問事項に国際平和協力活動などを追加
毎日新聞 2006年11月30日 東京夕刊
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20061130AT3S2902829112006.html
民主が「防衛省」法案賛成へ・参院選へ戦略見えにくく
民主党の小沢一郎代表が打ち出した野党共闘による与党との対決路線が揺れている。29日の党内論議の結果、政府・与党が成立を急ぐ防衛庁の省昇格法案に賛成する方針を決定。政権獲得をにらんで現実的対応を重視する勢力が「政策論」で押し切った格好だ。共産、社民と連携した沖縄県知事選で敗北した傷は深く、来年夏の参院選で与党過半数割れを目指す小沢戦略はいっそう見えにくくなった。
省昇格法案への対応を協議した29日の「次の内閣」会議。笹木竜三防衛担当は「賛成で意思統一してほしい」と提起したうえで、小沢氏と松本剛明政調会長らに最終判断を一任した。鳩山由紀夫幹事長は「結論が出たら自分の考えが合っていなくても従ってほしい」と求めた。 (07:02)
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=IBR&PG=STORY&NGID=main&NWID=2006113001000457
2006年(平成18年)11月30日
防衛省法案が衆院通過 今国会成立へ
防衛庁の「省」昇格関連法案が30日午後の衆院本会議で自民、公明、民主党などの賛成多数で可決された。参院に送付され、今国会中に成立する見通し。これに先立ち衆院安全保障委員会で可決、シビリアンコントロール(文民統制)の徹底などを盛り込んだ付帯決議が採択された。共産、社民両党は反対。
関連法案は、来年1月から防衛庁を防衛省、防衛庁長官を防衛相に格上げするほか、自衛隊法で「付随的任務」とされてきた(1)国際緊急援助活動(2)国連平和維持活動(PKO)(3)周辺事態法に基づく後方地域支援-などを「本来任務」に位置付ける。防衛相にはほかの閣僚と同様の権限を持たせ、国の防衛に関する重要案件や法案について閣議の開催を求めたり、予算を直接要求できるようにする。また防衛施設庁を2007年度に廃止し、機能を防衛省に統合する。
防衛庁は1954年に発足。省昇格構想は発足直後から関係者の間で持ち上がっていた。97年に行政改革会議で取り上げられ、01年には議員立法で「防衛省設置法案」が提出されたが廃案となった。
省昇格関連法案をめぐっては、民主党をはじめ野党側が防衛施設庁をめぐる談合事件の真相究明が先決と主張し、審議を拒否した経緯もあり、衆院安保委での法案審議時間(別テーマの集中審議を除く)は14時間余りにとどまった。
http://www.asahi.com/politics/update/1130/006.html
防衛庁の「省」昇格 衆院を通過
2006年11月30日14時33分
防衛庁を「省」に昇格させ、自衛隊の海外活動を本来任務へ格上げする防衛庁設置法や自衛隊法などの改正案が、30日の衆院安全保障委員会で自民、民主、公明などの賛成多数で可決された。同日午後の衆院本会議に緊急上程され賛成多数で可決、参院へ送られた。野党第1党の民主党は、シビリアンコントロール(文民統制)徹底や防衛施設庁の不祥事を受けた体質改善などの付帯決議をすることで賛成し、臨時国会での成立は確実だ。
法案が成立すれば、防衛庁は来年1月上旬にも「防衛省」となり、防衛庁長官は「防衛相」に格上げされる予定だ。これに伴い、今まで形式上、首相を経ていた法案提出や、海上警備行動発令の承認を得る閣議要求などは、防衛相が直接行うことになる。さらに、自衛隊の国際緊急援助活動や国連の平和維持活動(PKO)、テロ対策特措法やイラク特措法に基づく活動、周辺事態での後方支援などが国土防衛や災害派遣と同等の本来任務に位置づけられる。
また、法案の規定で、官製談合事件のあった防衛施設庁は07年度中に解体され、防衛省に統合される。その後、不祥事をチェックするための「防衛査察本部」を新たに設けて、トップの査察監は外部から起用する方向。来年の通常国会に、不祥事を防ぐための組織改編を盛り込んだ改正案を提出する。
この日の衆院安保委では同法案の可決を受け、民主党からの要望で、政府に対し、(1)防衛相の補佐体制などのシビリアンコントロールの徹底(2)官製談合、情報流出事件など相次ぐ不祥事の徹底究明と規律保持(3)自衛隊の海外派遣に関する国会への十分な説明責任、など7項目の付帯決議を提案。議決した。
防衛庁は54年に設置されたが、「省」に昇格すべきだとの意見が自民党などに根強かった。97年の橋本内閣での行政改革会議最終報告は、省昇格を「政治の場で議論すべき課題」としていた。
政府は今年6月に省昇格への法案を閣議決定、先の通常国会に提出したが、継続審議になっていた。来年の通常国会に先送りされて参院選に影響することを避けたい公明党の意向もあり、今臨時国会で審議入りした。
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